ダンスに必要な心理的要素とは?

こんにちは。スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。今回はダンスに特化して必要な心理的特性について話してみようと思っています。

ダンスの特殊性

今回取り上げる「ダンス」というジャンルには、バレエのように非常にかっちりとしたものから、ストリートダンスのような自由さがあるもの、また、コンテンポラリーダンスのような特に表現に特化した自由度がとても高いものなど、ひとくくりにできないほど様々なジャンルがあります。

しかしながら、どのダンスを選ぶにせよ、ダンサーがぶつかる壁として共通のものが「表現」ということの難しさになると思います。実は私自身もダンスを多少かじっていて、知り合いのダンサーの方と話す機会も多く、その中で「表現」の難しさをよく聴きます。この「表現」ということをもう少し詳しく考えてみましょう。

身体表現について

一口に「表現」といっても、踊る以外にも例えば絵をかいたり、歌を歌ったりなど、その方法は様々です。その中でも主に自分の体をつかって表現するダンスは「身体表現」という分類に入るものだと考えられます。

それでは「身体表現」とはいったいどういったものなのか、身体表現について考察しているある論文では「身体表現とはこころとともにある動きであり、単なる形の動きとは違う」ということが言われています。その動きとは芸術的に完成されたものや、見事な形式にのっとったもののみではなく「見たもの、聞いたもの、ふれたものを、さっと出す。思ったこと、考えたことをそのまま出すこと」と論じられています。これはつまり、身体表現とは身体を動かすスキルそのものではないということです。

さらに、同論文内で身体表現は自分の身体を媒介にして他者に自分の内面(こころ)を伝えることと書かれていますが、それと同時に自分自身に対しても気づかせることがある、ということが述べられています。人間はすべての動きを思考した後に行っているわけではありません、時には身体が先に動くこともあるでしょう、そのようなとき、その身体の動きからその時の自分でも気づかなかった自分の一面を知ることがあるのだと論じています。そのうえ、自分を知ることは、その場に居合わせる他者を知ることと同時に行われる、すなわち自分を知るには他者が必要であるとしています。

何やらとても哲学的で難しい話になってきてしまいましたので、私なりの解釈でわかりやすくまとめてみます。

身体表現というものは、「自分を意識している誰か(自分も含む)に向かって、自分の身体で自分の見たもの、触れたもの、思ったことなどをそのまま出し、伝える、心とともにある動き」というような感じなのかなと思います。そして「自分を意識している誰かが自分の表現に大きな影響を与える」ということも大事なポイントだと思います。

ダンスに影響を及ぼすこころの状態とは?

ダンスを身体表現とすると、「こころとともにある動き」であるので、自分のその時の心の状態が大きく影響します。その心の状態は、自分を意識している誰かによって大きく影響を受けます。ところで、この時のこころの状態とはいったい何なのでしょうか?

「こころとともにある動き」とは悲しい時は悲しい動き、楽しい時は楽しい動きなど、まさにその時に自分が感じる感情を動きに出すという意味なのでしょうが、悲しい時に堂々と悲しい動きが出せるか?楽しい時に自分の楽しい動きに疑問はないのか?というところがダンサーにとってハードルになることがあると思います。

つまり「自分のこころを表現する自分の動きに対する自信」があるかどうかということです。「自分の動きに自信がある状態」になって初めて自分の感情を自由に動きで表現できるようになると思います。

自分の動きに自信をつけるためには?

では、自分の動きに自信を持つにはいったいどうしたらよいのでしょうか?論文で考察したり、友人のダンサーに話を聴いたり、また自分自身で実践している中で、私自身が至った答えが「自分の動き(もっというと動きを出している自分自身)を受け入れることができるかどうか?」にかかっていると思います。

これは単に自分のダンススキルに対する自信とは異なります。なぜならそれは相対的なものになってしまうからです。例えばある程度のスキルを身につけたなと思っている人が、まったくの素人の前で踊るのと、自分よりスキルの高い人(であると自分が思っている)の前で踊るのではかなり違った感覚になるからです。おそらく後者の方が自信はぐらつくでしょう。

仮に「俺のダンスは世界のだれよりもすごい!!」と思っている人がいるとしたら。それは単にスキルの話ではありません。むしろ「自分の動き(自分自身)を受け入れることができるかどうか?」に近いニュアンスだと思います。

では具体的にどうすれば「自分の動き(自分自身)を受け入れる」ことができるでしょうか?とある論文で社交ダンスと自尊心の関係を説明する2つの理論モデルが説明されていました。1つが「評価反映モデル」、もう一つが「コンピテンシーモデル」です。この2つのモデルを取り上げながら具体的な方法を考えていきましょう。

まずは「コンピテンシーモデル」からですが、これはどういうモデルかというと、自尊心というのは、その特定の領域で達成したものに関して自分が有能であると感じていることがベースとなっているということ。つまり勝ち取った結果から「自分のダンスは良いんだ!!」と思うことです。

ダンスの評価は技術点でなく、芸術点のようなものが含まれるため、ダンサーにとって賞を勝ち取るということは技術だけを単に褒められているわけでなく、自分の表現方法が他人に受け入れられていると認識するきっかけになりえます。

つまりそこから、「自分の動き(自分自身)を受け入れる」につながっていくと考えられます。ここから考えられる具体的な方法は、とにかくコンテストに出まくって何でもよいので賞を勝ち取りましょう!ということです。

とはいえ、そのコンテストに出る自信すらないのですが・・・、という人にこれは酷な提案なので、「評価反映モデル」を説明しながらもう一つの具体的方法を提案していきたいと思います。このモデルでは、自尊心は他人の意見や知覚をその人自身がどのように受け止めるかがベースになっていると説明されています。

つまり他人に褒められて「自分のダンスは良いんだ!!」と思うことです。これの究極がコンテストで賞をとることだと考えるとコンピテンシーモデルと大して変わらなそうですがとにかく「誰かに認められた!」という感覚が大事なのでしょう。

具体的な方法としては、他者からのフィードバックを積極的にもらおう!ということが提案できます。その場合、だれでも良いわけではありません。自分が認める誰かであることが必要です。

最後に、これは私見になりますが「自分自身を受け入れる」ということに関して、とても大事なポイントがあります。いくら賞を取ろうが尊敬する人に褒められようが、ほかでもない自分自身が納得していなければ意味をなさないということです。

先に紹介した二つのモデルも、賞を取ったことに対して、誰かに認められたということに対して、自分がどう思っているかが重要なポイントになります。具体的な方法としては、普段から自分のダンスを見るクセをつけて、自分の踊りの良いところを見つけ、自分自身を好きになってあげることです。

これを普段からしておけば、褒められたときに素直に受け止めることができ、より自信になります。さらに、賞を取ればそれは盤石なものになるでしょう!

いかがでしたでしょうか?ダンスをしている方で自分に自信をつけたい方はぜひ試してみてください。

<参考文献>

  • 寺山由美(2017)「表現運動・ダンス」領域における「身体表現」 ― 「意図のある動き」の形成から捉え直す ―、体育・スポーツ哲学研究、39(2):95-108
  • Peter.L(2011)Dance confidence, age and gender、Personality and Individual Differences、50:668-672.
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