選手のやる気を引き出すための効果的な目標設定の仕方!!

日々の練習に対する自分の、または指導している選手の「やる気」に関する悩みを持たれている方は非常に多いのではないでしょうか?

コラム・【スポーツ選手に必要な「心の強さ」は「心理的競技能力」!!】でも「やる気」を紹介しており、競技を継続していくための基礎的な能力になります。今回は、選手の競技生活に対するやる気を高め、持続していくための、「目標設定」についてまとめてみました。

自分の現在地を知る!「自己分析」

実は、目標設定を行う前に必ずやっておかなければいけないことがあります。それは「自己分析」です。つまり、行っている競技において今自分がどのレベルにいるのかを自分自身がしっかりと評価、認識することです。

評価する側面としては、心技体の3つの側面を評価できると、良いと思います。「心」の評価は、前回紹介したDIPCA3などの心理検査を用いる、これまでの試合などでの自分の緊張状態を振り返る、などして行います。

「技」「体」に関してはそれぞれの競技に関するものをピックアップし実際に測定などができればよいと思います。監督やコーチに相談すればスムーズに評価することができます。
このように、心技体の側面から、今の自分の実力を知ることで、無理のない効果的な目標設定が可能になっていきます。

自己分析の時に必ずやっておいてほしい!競技に対する価値観の認識

自己分析を行う段階で、上記の競技能力の評価よりも重要になるかもしれないことがあります。それは、競技に対する「価値観」の認識です。

具体的に何を行うかというと、「なぜその競技をしているのか?」「自分にとってその競技をすることにはどんな意味があるのか?」ということを、誰かに言われたことではなく、自分自身でしっかりと認識しておくことです。これは大人のスポーツ選手でも難しい問題になります。

年齢層の低い選手には一層難しく感じられるかもわかりません。なので、僕が指導をする際、少し理解することがむずかしい年代だな、と感じた時は、「今のスポーツをやっていて楽しい時はどんな時?」など少し内容を簡単にして、価値観の認識の練習のつもりでやってもらうこともあります。

競技を途中でドロップアウトしてしまう選手の中には、この価値観が確立できてない人もいるのではないかという考え方もありますので、競技生活を持続していくうえではとても重要な作業になります。

以上のことを行ったうえで、その後具体的な目標を設定していきましょう。

目標は小刻みに立てる!「長期目標」「中期目標」「短期目標」

私は目標の種類を説明するとき、よく旅行に例えます。例えば、福岡市に住んでいる人が、ハワイに行くという計画を立てる場合、最終目的地は当然ハワイとなります。これが「長期目標」となります。さらに、ハワイに行くためには、福岡国際空港に行かなければいけません、これが「中期目標」です。さらに空港に行くためには博多駅に行って地下鉄に乗らなければいけません。これが、「短期目標」です。

このように、最終目的地に行くまでにはいくつもの「中間地点」を通ることになり、その場所にいけなかったら最終目的地にはいつまでたってもたどり着けません(もちろん別の行き方もありますが・・・)。
普段、自分の住んでいるところからどこか旅行に行く場合の「中間地点」というのは簡単にイメージできますよね。

簡単にイメージできるから普段はあまり意識することはないと思いますが、この「中間地点」をイメージできるということは、とても大事なことです。
コラムをご覧のみなさんも、この例えを理解したうえで、自分の行っている競技における目標を考えてみてください。「プロのスポーツ選手になる」、「甲子園に行く」などの「長期目標」はパッと考えることができても、「中間地点」をイメージすることができましたか?

長期目標だけを立てた場合と、中期、短期目標も同時に立てた場合とでは、日々の練習に対するやる気の維持には差が出ます。なぜなら、長期目標だけだとあまり現実味がないからです。人間はよりリアルにイメージできた方が行動を起こしやすくなります。

「プロになる!」という長期目標を立てたとしてもそれは何年後のことですか?小、中学生ぐらいの子には10年も先のことになってしまいます。10年先の自分をイメージするのは大人でも難しいことです。

「10年後にはプロになる(長期)、それでは高校ではどれくらいのレベルになっておかないといけないのか(中期)?そのためには今の自分はどのくらいのことができなければいけないのか(短期)?」というように目標を今の自分のところまで近づけるとよりイメージしやすくなり、やる気も出やすくなります。

目標の内容も考える!「結果目標」「パフォーマンス目標」「練習目標」

目標にはその内容によって、やる気の持続に差が出ることもあります。ここでは内容によって区別される3つの目標を解説します。

「結果目標」

その名の通り「結果」の目標です。「大会で優勝する!」「プロになる!」「A選手に勝つ!」など、達成できたかどうかがはっきりわかるものです。

「パフォーマンス目標」

自分自身のパフォーマンスに焦点を当てた目標です。「~ができるようになる!」「試合でのミスショットを5本以内に抑える」など、対戦相手などは関係なく、自分自身が基準となります。

「練習目標」

結果目標やパフォーマンス目標を達成するために何をするのか?に焦点を当てた目標です。「今週打ち込みを300本する」「毎日素振りを500回する」など、「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」の行動に重点を置いています。

一般的に目標というと「結果目標」のイメージがあると思います。しかし、実際のスポーツ場面ではこれだけだとやる気の持続という点では不十分になりがちです。なぜなら、対戦相手がいるからです。どんなに頑張っても相手が自分より強かった場合、目標を達成することができないこともあるでしょう。結果目標だけしか立てていなかった場合では、それによって選手が自信を失ってしまうことがあります。

「パフォーマンス目標」のように選手自身の上達に目を向けた目標を立てておけば、たとえ負けたとしても次につながる反省をすることができ、自信ややる気の低下を防ぐことができます。
また、「練習目標」のような行動の目標を立てることは、日々の練習でのやる気の継続に役立ちます。

SMARTな目標設定を立てよう

最後に、これまで紹介したいくつかの種類の目標を立てるときに留意しておきたい「SMART」について解説します。「SMART」とは目標を立てる際に留意しておきたい5つの点のそれぞれの頭文字をとったものです。5つの点とは、Specific、Measurable、Adjustable、Realistic、Time-referencedです。以下でひとつずつ解説していきます。※SMARTの5つは人によって違う内容を提案している方もいます。

Specific(具体的な)

目標は具体的なものにしましょう。「すごいサッカー選手になる!」「東大に受かる!」よりも、「永友選手のような、世界で活躍できるサイドバックになる!」「東大の理科二類に合格する!」の方が、じゃあ何をがんばったらいいだろうというのがイメージしやすいですよね。人間はイメージしやすい方が行動に移しやすいのです。

Measurable(測定可能な)

達成したかどうかはっきりとわかるように、測定が可能な形にしましょう。「足を速くする!」「机の上をきれいにする!」よりも、「50m走で7秒切れるようになる!」「常に机の上にあるものはペン立てだけにする!」の方が目標を達成できたかどうかがよくわかりますよね。そうすれば反省しやすく、さらに次の目標につなげやすくなります。

Adjustable(修正可能な)

目標は立てたら絶対に変えてはならないというわけでもありません。その時の状況に鑑みて適宜修正してかまいません。ただ、あまりに修正している場合はそもそもその目標が今の自分にマッチしていないという可能性がありますので、自己分析をしっかりしたうえで目標は立てましょう。

Realistic(現実的な)

頑張れば達成ができるような挑戦的かつ達成可能な目標を立てましょう。ただ、これは短期目標、練習目標に特に言えることです。10年先の結果目標などを立てる場合は、「世界で活躍できる~」「~日本代表」「オリンピック金メダル」など、できる限りビックマウスでも良いと思います。大事なのはそれまでのステップ(中期目標、短期目標、練習目標)を頑張れるかどうかなのです!

Time-referenced(期限がある)

目標には期限を設けましょう。これが意外に大事です。期限がないと緊張感が出てきません。適度な緊張感がないといつまでもダラダラとしてしまいます。

このように、目標設定といっても、さまざまな種類、立て方があります。しかしながら、この立て方が正解!というような決まった立て方はありません。しいて言うのであれば、選手自身が納得して、しっくりくるものがその選手にとっての正解になります。

これらの目標の種類や効果を理解して、自分に合った目標設定の仕方を、自分なりに工夫して見つけていくことが大事なのです。私たちのようなメンタルトレーニング指導士はそのお手伝いをさせていただいているにすぎません。

<参考文献>

  • スポーツメンタルトレーニング教本 大修館書店、2002年、日本スポーツ心理学会 編
  • 新しいスポーツ心理学入門 上達のための必要条件 春秋社、2000年、麓 信義 著
  • 教養としてのスポーツ心理学 大修館書店、2005年、徳永幹雄 編著
  • スポーツモチベーション~スポーツ行動の秘密に迫る~ 大修館書店、2013年、西田 保 編著
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