劣等感ではなく「劣等コンプレックス」の対処法!!

こんにちは、スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。

今回は劣等感からくる「劣等コンプレックス」にどう立ち向かうか?ということでその対処法についてのお話をしようと思います。
以前の記事「劣等感とはいったい何なのか?対処できるのか?」はみておくと理解しやすいと思います。

劣等感とはいったい何なのか?対処できるのか?

 

劣等コンプレックスは容易に対処できるのか?

劣等コンプレックスとはなんなのかをおさらいすると、運動神経のない(劣等性を持つ)人が「自分は運動神経がないなぁ」と感じること(劣等感)、が原因でネガティブな気分になり、「自分の運動神経じゃ逆上がりなんて絶対できないよ(本当はできるようになりたいにもかかわらず)・・・だからサボろう」と運動課題から逃避するという行動を起こしてしまうネガティブな一連の流れ、反応のかたまりのことです。

この劣等コンプレックスを克服する方法は簡単に言うと、自分が持つ劣等性をポジティブにとらえるように自分の認知を変えていくということになります。つまり、欠点を欠点と思わないようにするというものです。

なんかよく聞くな~なんて思いませんか?私自身、「欠点は実は長所なんだよ!」とか「欠点は実は個性なんだ!」とか、そんな前向きなセリフを芸能人のインタビューでよく見かけます。もしかしたら皆さんも自分の欠点が原因で落ち込んでいる時にそんなこと言われたことありませんか?同時にこうも思ったはず「そう思えたら最初から苦労しないわ!!」と。

そう、ここで問題になっていることは「じゃあどうしたら認知を変えていくことができるのだろうか?」ということです。スポーツ現場でのメンタルの問題のほとんどは、このようにやり方までサポートできる人が少ないことにあります。

現場の監督・コーチはその経験から、「どうなればいいのか」というところまではたどり着けますが、「どうやればいいのか」という方法論的なところまではなかなかたどり着くのが難しいと思います。それこそ研究者のように事例をたくさん集めて適切に調査・分析を行っていかないと明らかになっていかない領域になるからです。

もちろんスポーツ心理学の研究の分野ではその方法論がしっかりと考察されています。この後説明をしていこうと思うのですが。先に断わっておくと、それは容易なことではありません。それこそ人に「それはお前の長所なんだよ!!」と言われたからといってすぐさま「そうか!!」なんて納得いくものではありませんよね。よほど劇的な出来事でも起きなければすぐには変わることはできません。実際はじっくり自分と向き合っていくことで可能になることなのです。

具体的な方法論、「認知の再構成法」

それでは、自分の劣等性に対する認知を変えていくための具体的な方法論である認知の再構成法を紹介します。ステップごとに分けて詳細に解説していきます。ここでは具体例として、「自分は運動ができない」という劣等感を持っている人を挙げています。

ステップ①
「自分の劣等性や劣等感からネガティブな気分・感情・行動に至ってしまう状況」を詳細に思い出し、できれば紙などに書き出す。

例・・・自分は運動ができないと思っているので、体育の時間、特にサッカーやバスケなど集団で行う球技をする時になってしまう。

劣等性や劣等感があるからと言ってそれが常に自分の行動に悪影響を及ぼしているわけではありません。例えば足が遅いという劣等感があるからといって、それが原因で数学のテストの時に逃避行動を起こすということは考えにくいですよね。

つまり、人によって劣等性や劣等感が明らかになってしまう状況が変わるということです。運動能力について劣等感を感じているのなら数学の時間より体育の時間の方がその可能性は高いですよね。スポーツに関するスキルなど、劣等性や劣等感がより具体的、特定的になれば、それが明らかになる場面も具体的、特定的になることが考えられます。

ここでは、その人にとって特に劣等感を感じやすくそれが悪影響を及ぼしてしまう場面を特定しようとするステップです。これを明確にしておくことで、次回その状況になった時に気づきやすくなります。

ステップ②
「その状況におかれたときの自分は頭の中で何と言っていたか?その時の気分や感情はどんなものか?」を思い出し書き出す。

例・・・どうせできないし、みんなもできない自分をみて馬鹿にするだろうし、同じチームの人には迷惑をかけてしまうだろうな~、とその場から逃げ出したくなっている。恥ずかしさや罪悪感を感じている。

ここが問題の本質になります。つまり、足が遅いこと(劣等性)や足が遅いと自分で思うこと(劣等感)を、自分がどう認識するかというところです。ここがネガティブであれば結果もネガティブに、ポジティブであれば結果もポジティブになります。

例の中では、自分の運動神経が悪いと思っていることに対して、それは恥ずかしいこと、迷惑をかける事だと認識しているということです。

ステップ③
「その結果起きる身体的な変化(足が震える、頭が真っ白になる等)や行ってしまう行動(その場から逃げだすなど)、最終的にどうなったか」を書き出す。

 

例・・・できる限りボールをもらわないよう、目立たないところにいるようにしてしまう。ボールが来てしまっても、どうしたらよいか頭が真っ白になってしまって、身体が思うように動かない。

ここでは、劣等性や劣等感に対してネガティブな認知的評価をしてしまったらどうなってしまうのか?そのネガティブな結果を認識する段階です。それがはっきりすれば自分がいかに自分のためにならないことをしているのかがよくわかるということです。

ステップ④
なぜステップ①で描いたような状況になるとステップ②のような認知的評価をしてしまうのかを考えてみる。そしてそれを受け入れる。

実はこのステップが最も忘れられがちで、厄介で、そして最も大事なステップになります。まず、なぜ劣等性や劣等感によってネガティブな思考や気分になってしまうのかを考えることからこのステップは始まるのですが。ここで「非合理的信念」や「認知のゆがみ」と呼ばれるネガティブな思考の奥に潜んでいる厄介者を認識する必要があります。この「非合理的信念」というのは、読んで字のごとく合理的でない信念のこと、「認知のゆがみ」とは間違った(ゆがんだ)思い込みのことです。

例えば、あなたが一人で道を歩いていると、目の前から異性の二人組(あなたが男性なら女性の、女性なら男性の二人組です)が歩いてきます。すれ違いざまにすれ違った人がクスクス笑い始めました。こんなとき、急に不安になることはありませんか?「えっ!?俺なんかおかしなことしたのかな?」とか、「やっぱり俺ってダサいのかな?」とか、人によっては「あ~~絶対私のこと笑ってるよ・・・」なんて断定しちゃっている人もいるんじゃないでしょうか?

これって第三者的な目線で見たらかなりおかしな結論ですよね。その二人はただ昨日見たバラエティ番組について話していて思い出し笑いしただけかもしれないでしょう?それに自分目線で考えてみたら、すれ違う人たちをいちいち詳しく観察なんてしていないことはわかりますよね。

芸能人かよっぽど奇抜な格好をしていない限りそんなに他人は自分のことなんて見ていないものです。それはわかってるんだけどそんな不安が出てきてしまう。これは大した根拠もないのに飛躍した考え方をしてしまう、「結論への飛躍」と呼ばれるものです。そのほかにも、「自分は上司なんだから常に尊敬されるような振る舞いをするべきなんだ!!」とか「チームのエースである俺が点を取らなきゃいけないんだ!!」など、別に周りはそこまで厳しく求めているわけでもないのに自分の中の基準が強すぎて自分を苦しめてしまう「べき思考」などというものもあります。

このように、自分の持っているそもそもの考え方の癖、間違った認知のゆがみが、それほど気にしなくていいし、むしろ自分のプラスにもなる可能性のある劣等性や劣等感を嫌なものとしてネガティブにとらえてしまう要因となっていることがよくあります。それを認識することがここでの大事なポイントです。そうして初めて、そのゆがんだ認知、思考のクセを持っている自分を受け入れることができるようになるのです。

ただ、この受け入れる作業がもっとも厄介になるところでもあります。非常に説明が難しいのですが、ちょっと強引に説明するならば、漫画でおなじみの描写、男同士がケンカして「やるじゃねーか!」「へへっ、お前もな!」みたいな感じに似ているなという感じです。
劣等感からネガティブな思考をしてしまうある意味「素直な自分」と、そしてそれをよく思わない合理的な考え方になろうとあがく「合理的な自分」が喧嘩しちゃうわけですね。

「ネガティブな思考を改善したい」とか「変えたい」などと思う「合理的な自分」からは、「素直な自分」を排除したいという、「否定」や「拒絶」のイメージを感じます。それはステップとして受け入れる前にはあってしかるべきものなのだとおもいます。ただそのあと、一方的に「素直な自分」をねじ伏せるだけでは、「やるじゃねーか」「お前もな!」のエンディングにはたどり着けません。ただの弱い者いじめですからね。「素直な自分」の反撃があればこそ、五分五分だからこそ、認めることができるのだと思います。

つまり感じたままにしておく、「素直な自分」の赴くままに、思ったこと(愚痴や汚い言葉も出てくるかもしれません)を押さえつけようとせず、あえてくらう、受けて立つ!そうすることではじめて「素直な自分」が理解できるようになるのではないかと思います。実際のカウンセリングの事例において、何かしら問題を抱えるクライアントが、初めは問題を「拒絶」し徐々に「受け入れ」るというステップにおいてよく見受けられることです。もちろん人によるということは断っておきますが・・・。

これまでの例でいうと、運動神経がないことを、それが恥ずかしいことだと思うこと、みんなに迷惑がかかると思うことを、「しょうがないよね、思っちゃってるんだから」と開き直るように考える。

ステップ⑤
ステップ②で起こる、非合理的でネガティブな自分に対する語りかけを、ポジティブなものに置き換える。それによって予想されるポジティブな結果も考える。これも書き出すと良い。

例・・・運動神経がないから、みんなから馬鹿にされてしまう、みんなの迷惑になる。⇒ ないものはしょうがない。それでも、みんなの役に立てることがあるはずだ!

ステップ④で自分の非合理的信念やそれによってネガティブ思考になっているダメな自分を受け入れることができたなら。そこで初めて、非合理的なものを合理的なものに切り替えて考えることができます。受け入れるということが本当の意味でできていなければ、いくら言葉だけポジティブなものに変えていてもなかなか納得がいきませんし、ネガティブな思考の方に気を取られてしまいます。

なお、ここでのポジティブな言葉は短く簡潔なものが良いと思います。

ステップ⑥
ステップ①~⑤までで行ったことをイメージや実践の場で練習し何度も試してみる。その際の結果などは練習ノートなどに書き留めてモニタリングしていくと良い。

具体的に言うと、イメージなどを用いた場合は、

まずステップ①で描いた状況を想起する
⇒そこで今までの自分がやってしまうネガティブな思考を思い浮かべてみる
⇒ここで一度思考停止!腹式呼吸をしながら呼吸時間を数えてみるなどして意識を他のものに向けたりするのが効果的です。
⇒ステップ⑤で考えたポジティブな言葉を自分に言い聞かせる。

と言った手順をくりかえしイメージで行い、イメージの中では、自分の思考や感情、身体の感じがどうなったか?等をモニタリングして振り返る。などしてトレーニングしていきます。もちろん実践の場でも試してみるとなお良いです。

以上が具体的なやり方をまとめたものです。とても長くなってしまったのですが、つまりは簡単なことではないということですね。できれば、専門家の指導のもとで行うことをお勧めします。根気よく続けていけば必ず克服できることでもありますので。試してみてください。

<参考文献>

  • スポーツメンタルトレーニング教本、大修館書店、2002年、日本スポーツ心理学会 編
  • 最新スポーツ心理学―その軌跡と展望―、大修館書店、2004年、日本スポーツ心理学会 編
  • イメージ体験の心理学、講談社、1992年、田嶌誠一 著
最新情報をチェックしよう!