【インナーゲーム】火ノ丸相撲を心理学的に分析~プレーに集中するための方法~

こんにちは。メンタルトレーニング指導士の河津です。今回はマンガの中から学べるスポーツ心理学の知識を紹介しようと思います。

ハイキューの回のタスクフォーカスのテーマとも近い部分があり、併せて読むと共通点が見いだせて非常に良いと思います。ぜひこちらの記事もご覧ください!

タスクフォーカスを学ぶ~漫画ハイキュー!!を心理学的に分析~

自分を俯瞰してみているもう一人の自分

今回は少年ジャンプで連載中の相撲マンガ「火ノ丸相撲」のあるエピソードを紹介したいと思います。

この漫画の主人公「潮火ノ丸」は身長150㎝台の恵まれないからだにもかかわらず、その心の強さを武器に大相撲の世界で「鬼丸」という四股名で力士として活躍していました。

取り上げるエピソードは、名古屋場所での「大包平(おおかねひら)戦」の模様、相手力士の「大包平」は同期の力士の台頭への焦りや、自分の気持ちの弱さへの苛立ちから、それを払拭すべく相手を壊すことも辞さない荒れた相撲を取っていました。それほど精神的に追い詰められていたのです。

その大包平が劣勢に立たされた時、相撲に対する思いに気づくシーンがありました。

火ノ丸相撲 第234話 引用                            ※大包平関(学生時代の呼び名はアキ)は髪の毛の色がグレーの方です。

 

と、その時、自分の相撲を土俵の上から眺めるもう一人の自分が現れました。もう一人の自分が土俵の自分を見つめてこう言います。

火ノ丸相撲 第234話 引用

 

これまで、どう扱ったらよいかわからなかった思いを「自分は自分」と受け入れて、やっぱり相撲が好きなんだ!と気づいた瞬間でした。その瞬間もう一人の大包平が土俵に目を向けるようになったのです。

それからの大包平の相撲は目を見張るものでした。その様子を横綱の刃皇関がみてこのように言っています。

 

 

火ノ丸相撲 第234~235話 引用

 

インナーゲーム「セルフ1、2」

テニスやゴルフを取り上げながら、競技中の心のコントロールを「インナーゲーム」と称して解説する、メンタルトレーニングの世界では結構有名な本「インナーゲーム」。その著者ティモシー・ガルウェイは、競技中の自分の中に自分が二人いることを解説しています。それが「セルフ1」と「セルフ2」です。

セルフ1は考え、命令を下すもの、セルフ2は感じ、実行するもの、と表現されています。この関係は、親(セルフ1)と子(セルフ2)、上司(セルフ1)と部下(セルフ2)、の関係にもよく似ています。

本来、セルフ2が身体組織や本能そのもの、つまりはその人の潜在能力なのですが、どこからともなく現れ、セルフ2に余計なことを吹き込むのがセルフ1なのです。セルフ1に実体はありません。あくまで心理的な現象でしかありません。

例えば、自分がいままでやったことのない運動をするとしましょう。ここではそれがバク宙だとする。

さあイメージしてください、あなたは今まさに生まれて初めてバク宙を練習しようとしています。この時、頭の中で何かつぶやいていませんか?「自分にできるのか?」「失敗したらケガするぞ!」「怖い」などの言葉です。実はこれがセルフ1の仕業です。

本来運動するためには全く必要のない思考です。しかし、セルフ1の得意なのはこのような悲観的な分析です。セルフ1はセルフ2をあまり信頼していません。部下のことを信頼できない上司が口うるさく部下に何かを言うがごとく、セルフ1は実行者であるセルフ2にいろんなことを吹き込みます。こんな時、部下やセルフ2は本来の力を発揮できないでいるのです。

マンガの中の大包平は、鬼丸との対戦前ではまさにこのセルフ1が大暴れしているように描写されていました。この鬼丸との対戦中も「楽しむやつには勝てないのかな・・・」と悲観的なことを言っています。しかし、何がきっかけだったのかここで「相撲が好きだ」と切り替わり弱い自分を認めようとした瞬間、「ほらそこにスペースができてるぞ・・・」と戦う自分(セルフ2)に助言を与えています。

まさにこの瞬間が、大包平(セルフ2)が潜在能力を発揮した瞬間だったのです。

ガルウェイはインナーゲームの目的は、セルフ2を説得してもっと頑張らせるかということではなく、セルフ1の妨害をいかに抑制するかにあるとしています。そうすれば勝手にセルフ2は潜在能力を発揮するのです。

セルフ1の妨害をどのように抑制するか?

となると、どうしたらセルフ1の妨害を抑制することができるのか?その方法が気になるところですよね。

実はその方法のヒントとなることも「火ノ丸相撲」に描かれていました。自分を受けいれ覚醒した大包平のセルフ1は取り組み中にこんなセリフを言っています。

覚醒大包平(セルフ1)「大丈夫・・・全部見えてる」

これこそがガルウェイが著書の中で言っている、「注意を絞り込む」という方法にほかなりません。彼はセルフ1に何かの作業に没頭してもらうことで自然と妨害を減らし、とセルフ2に自由にプレーさせることができるということを提案しています。それが「注意を絞り込む」という方法でした。

覚醒した大包平のセルフ1は、「土俵を上からただ見る」という作業に没頭し始めました。それだけでセルフ2はそのスペースを意識し動きが良くなったのです。

このような感覚は、僕自身もアスリートの面談経験からよく聴くことがあります。「ただ見ているだけで反応できた」、「目標を見ているだけで体が勝手に動いた」などです。

ガルウェイがテニスのレッスンで行った「バウンス・ヒット」

最後に、彼が実際にテニスのレッスンにおいて行った注意を絞り込む練習「バウンス・ヒット」を紹介したいと思います。

彼はこの練習をする時にはいつも「これはショットの結果を向上させるためではなく、注意を絞り込む技術の練習です」と伝えます。やり方は、ボールがコートにバウンドする瞬間に「バウンス」と声を出し、ボールがラケット面に当たるインパクトの瞬間に「ヒット」と声を出すというもの。

プレーヤーが余計なことを考えず、ただただこの「バウンス・ヒット」の声出し練習にのめりこむと動きが勝手にスムーズになり、難しいショットもこなすようになると説明しています。

これはセルフ1が「バウンス」、「ヒット」と発声するという作業に没頭することで、セルフ2が本来の動きを勝手に出しているという状態なのでしょう。

こういった練習法を、テニス以外にも応用するためにはこの練習の本質を理解しておかなければいけません。彼は注意を絞り込む練習には2つの条件があると書いています。

1つ目は、セルフ1を引き付けておくだけの、「興味」がある事。バウンス・ヒットの場合はボールのバウンドに注意を引き付けてそれに合わせて言葉を発するというボールの呼吸に自分を合わせるようなところに興味が惹かれるのかもしれません。

2つ目は、ボールと体の動きが調和するような(球技の場合)、フィードバックが得られるものにすること。バウンス・ヒットの場合は、声とボールのバウンド、声とインパクトがずれたら即座にズレがわかります。

いかがでしたでしょうか?今回の話は実際にやろうとしたら結構試行錯誤が必要になるかもしれません。新しく自分で何か練習法など編み出したい方は、運動学習研究や、スポーツと認知の研究をされているような専門家の方を交えて考えてみるとより良いものができるかもしれませんね。

<参考文献>

  • W.T.ガルウェイ 著 「新インナーゴルフ」 日刊スポーツ出版社
  • 川田 作 「火ノ丸相撲」第233~235話 集英
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