漫画「ジャイアントキリング」を心理学的に分析~強いチームの作り方~

こんにちは。メンタルトレーニング指導士の河津です。今回もマンガの中から学べるスポーツ心理学の知識を紹介しようと思います。

みんなで同じ方向を向くということの意味

今回はいつもと違い、チームにフォーカスした内容になっております。取り上げるのは人気のサッカー漫画「ジャイアントキリング」です。この漫画は主人公がプレイヤーではなく監督であり、それゆえチーム作りやチームの戦術などにフォーカスした非常にリアルで大人がはまる内容になっています。

紹介するエピソードは主人公の達海監督が日本のプロサッカーリーグで毎年降格争いをしている弱小チームETUの監督に就任し初めてのシーズン前キャンプでの出来事です。

達海は就任早々村越というETUを長年支えてきた中心選手をキャプテンから外したり、連続ダッシュの結果だけで、レギュラー候補組を選定(ほとんど試合経験のないサブやサテライトの選手が多く含まれていた)し、現レギュラー組を補欠メンバー扱いし、レギュラー候補組と戦わせ、見事な戦術により現レギュラー組を破るなど、一見チームを土台ごと壊すような無茶をしていたのですが、このシーズン前のキャンプでもとんでもないことを言い出すのです。

ジャイアントキリング 8話 引用

引用からもわかるように合宿初日のメニューを「自習」とだけ言い残し選手に丸投げ、さらに中心選手である村越の口出しを完全に禁止しました。

そしてコーチ陣もすべてコートから引き上げさせます。ここでしびれを切らしたコーチ松原がキチンとした指導をするように抗議するのですが、ここで達海が自分の意図を初めて伝えます。

ジャイアントキリング 8話 引用

 

達海は実は就任前に前シーズンのETUの試合を見たり、チームの状況を観察したりなどしてETUのチームとしての良くないところを見抜いていました。その一つが、中心選手村越に頼りすぎて、チーム全体の自主性が失われている事でした。

達海はそれを見抜き、若手選手をけしかけたり、村越をキャプテンから外したりしていたのです。一方、自習とだけ言われた選手たちは、自分たちなりに何かしようとし始めるのですが、若手とベテラン勢が言い争いを始めてしまうのです。

ジャイアントキリング 8話 引用

それを松原とこっそりのぞいていた達海はさらにとんでもない行動をします。なんと自習中の選手達からボールを奪っていき、最終的に1つのボールだけ使って練習するように選手に伝えるのです。

 

このあと、一つしかないボールでどんな練習をするのか、それぞれ選手が上も下もなくどんどん意見を挙げていきます。しかしながら収集がつかなくなり結局乱闘騒ぎにまで発展していってしまうのでした・・・・。

乱闘は止めるのが遅れてしまって失敗だったのですが、選手が勝つための意見を、周りを気にせず自主的にどんどん言っていたこと、これが達海の本当の狙いでした。そして、それは達海の想像をちょっとだけ超えたものでした。実際にその後のプレシーズンマッチの控室でその時のことを振り返って選手達にこう伝えています。

ジャイアントキリング 12話 引用

チームメンバーが自主的にチームの意見を出しているのか?「組織市民行動」

今回のエピソードで達海が選手に求めた、「自主的に、衝突や否定を恐れることなく、勝つための自分自身の意見を出す」ということ。これこそ、強いチームによくみられる特徴である「組織市民行動」の中の一つになります。

「組織市民行動」とは、チームを効果的に機能させるため、チームのメンバーが任意で行う行動のことです。その中の一つに、「チームへのコミットメント行動」という内容の行動があるのですが、ETUのメンバーが行った乱闘になってでも自分の意見を言うというのはこの「チームへのコミットメント行動」に含まれる内容になります(乱闘はいけませんが・・・)。

この行動のポイントは任意であるということ。まさに、達海が見抜いていた「自主的に考えなくなっていたETUメンバー」に必要な行動であるのです。

漫画の中の、これまでのETUは、村越を中心にチームがまとまっていたというようにも見えますが、それは村越の意見にみんなの意見を合わせるだけという、自主性のないものになっていたのかもしれません。それではチームとしての本当の強さは手に入らないのです。

達海は「組織市民行動」を選手たちに芽生えさせるために、一見乱暴にも見える過激なチーム作りを実行していたのでしょう。

<参考文献>

  • 河津慶太ほか スポーツチームにおける組織市民行動、チームメンタルモデルとパフォーマンスの関係の検討 ―大学生球技スポーツ競技者を対象として―、スポーツパフォーマンス研究、4:117-134
  • 綱本将也 作 ツジトモ 画 「GIANT KILLING」第8~12話 講談社
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