指導者に必要な資質「真摯さ」を映画で学ぶ

こんにちは、河津です。

突然ですが「コーチ」という言葉の語源を皆さんご存知ですか?

「コーチ(COACH)」とはもともとは「馬車」を表す言葉、荷物や人を目的地まで運ぶものなんです。その意味が転じて、「選手を目的地まで導く者」という意味で使われています。

そう、「教える」のではなく「導く」んですね。あくまで載せて運ぶだけ、目的地に向かう意思や力を発揮しなければいけないのは乗り手、つまりは選手なんです。

そんなコーチの皆さんに一度は見てほしい「映画」を今回は紹介したいと思います。
その名も「コーチ・カーター」、直球なタイトルですね!!

実はこの映画、アメリカに実在する高校を舞台にした実話を映画化しているもの。もちろん主人公の「ケン・カーター」も実在の人物です。

この話は、主人公であるケン・カーターがアメリカのカリフォルニア州にある10段階評価で1という最低の評価をされていたリッチモンド高校、その高校にある昨シーズン成績4勝22敗のこれまた最低のバスケットボールチームのコーチに就任するところから始まります。

コーチ・カーターの超スパルタ教育的指導!!

そんな彼が就任初日にしたのは選手とある契約を結ぶことでした。

その契約内容は、「学業成績で平均2.3の成績を収めること(当時、州が求めていた基準は平均2.0)」、「授業は必ず出席し、一番前の席に座ること」、「試合の際は白シャツ、上着、ネクタイを着用すること」などなど、およそバスケットボールとは関係のない学業に関するものばかりですが、この項目をきちんと守ることができれば君たちに勝利を約束しよう!というものでした。

コーチカーター本編より引用

実際の本人へのインタビューではバスケットボールに関する項目はひとつだけだったと語っています。この契約内容は保護者にも公開され署名をさせました。

就任後もその超スパルタ姿勢を一切崩さなかったカーター、実際、練習に少しでも遅刻してしまったら実の息子だろうとペナルティにダッシュ20本。一度勝手に抜けてのちに復帰したいといってきた部員には腕立て2500回、ダッシュ1000本。授業に欠席したチームの主力には試合出場停止処分。と今の日本でやったら確実に体罰だと問題になりそうな内容ばかり。

極めつけは学業成績平均2.3を全員が守れなかった(守れていたものも数名はいた)ということで、連帯責任で体育館を鎖で閉鎖、さらに公式戦も辞退というほとんど暴挙と言われても仕方ない強硬手段も行ってしまうのです(実際にこの事件は「ロックアウト事件」として地元のニュースにも取り上げられたようです)。

カーターの超スパルタ教育に対して周りの反応は?

もちろんとてつもない反発を受けるカーター、就任初日の契約の段階でチームの主力選手3人が抜けて二度と戻ってはきませんでした(自分からも連絡は取らなかったとのちに語っています)。

残った選手からも、「頑固」「押しつけがましい」「好きではなかった」など、とてもよくは思われていなかったようです。保護者からの反発も強く、最初の契約の段階から反対意見が出ていました。

それでもチームは開幕13連勝と確実に強くなり、少しずつ親からの理解も出てきたところでの例の「ロックアウト事件」、これには次第に理解をしてきた保護者も猛反発、とうとう教育委員会での辞任要求にまで発展してしまいました。

カーターに学ぶコーチとしての姿勢

映画にするにはぴったりのかなり思い切ったことをしていったカーター。

そんな彼から学ぶべきコーチとしての姿勢があります。それは「真摯さ」です。真摯さとは、仕事に対して「誠実で高潔で、信念を持ってブレない」姿勢。彼の真摯さは映画を見ればわかりますが、まさに圧倒的でした。

選手や周りの大人たち(特に保護者)がチームの成績などに影響されてカーターへの態度や考え方がブレブレだったのに対し、カーターはただ一人、就任初日から全くぶれない信念を持っていました。

それが良くわかるシーンがロックアウト事件の後、教育委員会での議論のシーン、選手の保護者から「バスケはあの子たちのすべて、それをカーターに奪わせていいの?」というようなことを言われます。そこで初めて彼は自分の持つ考え、コーチとしての信念を訴えるのです。

うろ覚えで申し訳ないですがこんな感じのセリフでした。

「みなさんが選手に言っていることはプロの選手に言っていることと同じだ!『君たちは法を超越している』そう言っているようなものだ。

私は選手に規律を教えようとしているんです。まだ10代の彼らに簡単な契約を守らないでいいと教えたら、やがて法も犯すようになる!!

私がここでプレーした(カーターもリッチモンド高校出身でした)30年前も一緒だった。刑務所に入る者や殺された者もいた。この流れを変えたくてコーチを引き受けた。それには今のやりかたしかない!!」

リッチモンド高校のある地域はとても治安が悪く、卒業生は大学進学率6%、刑務所行きの確率は80%と言われていました。そんな中で保護者や教師、校長先生、カーター以外の大人全員がそんな子たちにはスポーツしかない、とあきらめにも似た気持ちでした。その流れをよくないと感じていた彼は、選手たちのためにバスケ以外の道、大学進学の可能性を提示しようとしたのです。

カーターは選手たちにバスケの試合に勝利すること以上に大事なことがあると教えたかったんですね。この信念を就任初日からブレずに持ち続けていたのです。彼の行動はすべてこのためのものでした。

自分の姿勢を真摯に貫いたカーターがもたらした変化

選手たちにもその気持ちを直接話すシーンがありました。ロックアウト事件の渦中で、図書館に選手を集めてこういいました。

「卒業できるのは50%。大学に進学できるのは6%。じゃあ君たちはどこに行くか。黒人の君たちは多分刑務所へと言われる。この郡では18歳から24歳の黒人の3分の1は逮捕されている。ただの数字だが統計は冷酷だ。家に帰って自分や両親の人生を考えてみろ。満足か?もし不満があるのなら明日またここに来い。私は持てる力のすべてを使って君たちを大学に進学させる!!」

カーターのもつこの「真摯さ」は、やがて選手や校長先生、教師たちに伝わり、選手たちは契約を達成し、試合に復帰することができました。復帰後チームは18連勝、ついに州大会への出場を果たしました。州大会では惜しくも破れてしまいましたが。彼の指導した選手のほとんどは大学進学に成功しました。

カーターはのちにインタビューでこう語っています。「自分のことをよく思わない生徒がいるのはかまわない、10年後に彼らが成功を手にすることが自分の望みなのだ」と。

このカーターの持つ「真摯さ」というのは、経営学の父と言われたドラッガーがすべてのリーダーに共通して備えておいてほしい資質として紹介しています。

もちろん時代や環境にマッチしている必要はあると思いますが、しっかりと考え抜いて固まった自分の信念を信じて曲げない姿勢というのは、部下や教え子、また子供に絶対に伝わるものなんですね。

<参考映画・文献>
• 「コーチ・カーター」 アメリカ、2005年

• まんがでわかるドラッガーのリーダーシップ論、宝島社 2014年、藤屋伸二 監修

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