【アンダーマイニング効果とは?】研究例を挙げながら解説!

こんにちは。河津です。

今回は子供のやる気低下を防ぐためにアンダーマイニング効果というものを紹介したいと思います。
人間のやる気に関する性質を知っておくと、声のかけ方をよい方向に工夫することができますので、是非ご覧ください。

アンダーマイニング効果とは?

アンダーマイニング効果とは、内発的動機づけ(内発的なやる気)によって行動を起こしている人に外発的動機づけ(外発的なやる気)を与えてしまうことにより、内発的動機づけがさがってしまい結果として動機づけの低下が起こること。

ここでいう「動機づけ」というのはいわゆる「やる気」と同じ意味でとらえて大丈夫です。※これ以降は「動機づけ」ではなく「やる気」という言葉を使って解説していきます。外発的やる気とは簡単に言うと何か行動を起こすときに自分で決めず自分の「外」から決定させられているというもの。逆に内発的やる気とは自分の「内」でやると決めているというものです。

内発的ー外発的の詳しい説明はこちらの記事をご覧ください。

【自己決定理論】を理解して、うまいのに練習に来ない選手をやる気にさせよう!!

アンダーマイニング効果に関する研究で分かっている事

1990年代、脳の活動を画像で示すfMRIという方法が普及し、心理学の理論を生理的な指標で説明することが可能となってきました。

そのfMRIを利用したアンダーマイニング効果と脳活動の関係を調べた研究が2000年を過ぎていくつか報告されています。その研究の中で分かっていることをいくつか紹介して、アンダーマイニング効果について脳科学の視点から掘り下げていこうと思います。

やる気やご褒美に関する脳の部位

個人が主観的に物の価値を決めたり、金銭的な報酬の大きさに関係する脳の部位として脳の中心部に位置する線条体という部分があります。この線条体の前部では、前頭葉から運動や行動に関する情報が一方通行で送られてきます、さらに中脳からは快感や快楽を感じる要因となるドーパミンが線条体に向けて放出されます。

線条体で、とある行動の情報伝達とドーパミンの放出が同時に起こると、その行動の情報は快楽と結びつくと認識され、その情報に対する感度があがります。そのことによって、その行動が強化されるのです。

このように、人の行動やそれに対する快楽などの報酬に大きくかかわっている部位が線条体です。

アンダーマイニング効果と脳の活動部位

Murayamaら(2010)はfMRIを使ってアンダーマイニング効果が起こっている時の脳活動を調べる研究を行っております。ここでも線条体が注目されました。

この研究では、アンダーマイニング効果を起こすように仕向けられる「報酬群」とそうでない「統制群」に被験者を分け、とある課題を実施してもらい、課題実施中の脳活動を観察するというものでした。

結果から言うと、アンダーマイニング効果が起こった時には線条体の活動に変化が起こっていました。この結果により、アンダーマイニング効果が脳活動という観点からも起こることが証明されたのでした。

以下で行われた実験と結果の詳細を解説します。

まずはじめに2つの群の被験者に課題を行ってもらい、その課題に成功した時の脳活動と失敗した時の脳活動を比べてみたところ、どちらの群も成功時に線条体前部が反応し、失敗時にはそれほど反応しませんでした。この時報酬群には前もって課題の結果によって金銭的報酬を与える事を伝えていますが、統制群には金銭的報酬のことは伝えていませんでした。

このことによって、どちらの群でも課題の成功が被験者にとってご褒美と認識されたということが分かったのですが、報酬群は結果によって金銭的な報酬があると分かっていたので、成功を金銭的な報酬と結びつけてご褒美として認識した一方で、統制群は金銭的な報酬のことは知らないので、課題の成功それ自体が被験者にとっての報酬になったという、報酬の内容に違いがあることがわかります。

この内容の違いは、先に説明した外発的やる気と内発的やる気の違いにつながります。ここでいうと報酬群が「金銭的報酬のためにやっている」外発的やる気、統制群が「課題の成功自体がうれしいのでやる」内発的やる気ということになります。

さらにその後、2つの群に同じ課題をもう一度やってもらうのですが、この時は課題の後の報酬はないことを両群に伝えます。課題実施中の脳活動はどうなったかというと、報酬群では報酬ありの1回目の時とは変わって、成功しても失敗しても線条体はあまり反応しませんでしたが、統制群では1回目と同様の反応が起こったのです。

つまり報酬群において、「課題の成功が報酬である」という認識が脳内で起こらなかったということ、課題に対するやる気も低下すると考えられますので、アンダーマイニング効果が発動していることが証明されます。

ちなみに1回目の課題実施と2回目の課題実施の間に休憩時間を設けて、その間は控室で自由に過ごすように被験者に指示しました。控室には課題を行えるコンピューターや、雑誌などが置いてありました。被験者の行動を観察したところ、報酬群に比べて統制群でコンピューターを使って課題を行っている被験者が統計的に優位に多かったようです。

つまり、ほっといても統制群の方は課題を勝手にやっていたといえます。課題に対して内発的やる気を持っていたことがこのことからもわかります。

現場への応用

このように、アンダーマイニング効果は脳活動の変化から見ても確かに起こるもので、実際の行動にもつながってくることが研究によって証明されています。

それではこの結果をどのように現場に応用するか?ということをここで考えていきましょう。

アンダーマイニング効果の条件

これまでの研究で、アンダーマイニング効果が起こる条件がいくつかあることが分かっています。

一つは、対象となる行動に対してすでに内発的やる気があるということ。アンダーマイニング効果とは、すでに好きでやっている行動が金銭的な報酬によってやらなくなってしまうという現象なので、そもそもやりたくないことに対しては起きません。内発的やる気がそもそもないのだから・・・。

もう一つは、報酬がもらえることが予想されている場合に生じるということです。金銭的な報酬をやること自体が原因になるのではなく、金銭的な報酬をもらうということを認識した時、その後の行動が「やらされている事」と思ってしまうためやる気が低下するのです。

実際、先で紹介した研究でも報酬群と統制群は1回目の課題の後にどちらも報酬をもらっています。違ったのは前もって伝えていたかどうかだけです。

応用するためのポイント

アンダーマイニング効果とは、そもそもやる気が強い状態(内発的やる気)がやる気が弱い状態(外発的やる気)になってしまう現象であるので、まずは子供のやる気がどのような状態かということを見極められる必要があります。

その見極めのポイントが、その行動を誰かにやらされているのか?自分で決めてやっているのか?を見る事です。自分で決めてやっている事ならば、そっと見守っていればいいだけなのです。

ちなみに、そもそもやる気がなくてやる気を少しでも出してもらいたいな、というときはご褒美で釣ってもはじめは悪くありません、まずはやってもらうのにご褒美は強力な武器になります。ただそればかりではやる気は高まりませんが・・・

そして、とても大事なポイントが一つ。すでにやる気がある状態ではご褒美をあげないほうが良い。というわけでもないということは理解しておいて下さい。上記でも説明しましたが、アンダーマイニング効果が起きてしまう要因は報酬それ自体ではなく、報酬を予想してしまうことによっておこる「自分でやってます感の喪失」にあります。

頑張った我が子をねぎらうためにおいしいものをごちそうしたり、ご褒美を与えることは何も悪いことではなく適切に行えばむしろやる気は上がります。これは、「褒める」などのいわゆる社会的報酬においても同様のことが言えると思います。

褒めたり、ご褒美をあげたりするときはあくまで子供にとってサプライズであった方が良いということです。そうすれば「自分でやってます感」は損なわれずにすむでしょう。

ただ注意しておいてほしいのは、前もって子供には伝えてなくても毎度毎度ご褒美をあげたり褒めたりすると、子供が慣れて「今回もご褒美があるだろう」とご褒美を予想してしまい、いつの間にかご褒美のためにやるようになってしまうことがあるということです。

応用の仕方まとめ

最後に、箇条書きで今回の話の応用の仕方をあげておきます。

  • まずは子供のやる気の状態を見極める事
  • ご褒美をあげたり、褒める時はあくまでサプライズで気づかれないようにする事
  • 毎度毎度ご褒美をあげたり、褒めたりしない事

以上です。今回はアンダーマイニング効果の観点から、子供のやる気を引き出すための接し方をまとめてみましたが、親と子供の信頼関係ができているということが前提条件としてありますので、そこができていないと感じるならばまずはそこからですよ!!

親子の信頼関係についてはこちらの記事が参考になるかもしれません。興味がある方はチェックしてみてください。

世界のイチローを育てた!野球の指導法と親子の信頼関係

<参考文献>

  • やる気と脳ー価値と動機づけの脳機能イメージングー:高次脳機能研究 第34巻、第2号、 pp165-174 、2014年、松元健二
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