野球のピッチャーに必要な心理的要素とは?

こんにちは。スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。今回は野球、その中でもピッチャーに必要な心理的な能力は何なのかをまとめてみました。

野球と他の集団スポーツとの違い~野球の特殊性~

野球というスポーツは集団競技でありながら、かなり個の力がチームの強さに影響を及ぼす度合いが多いスポーツだと考えられます。例えば、サッカーではどんなに優れたストライカーがいても、2人マークがつけば、なかなかパスを回せないので、数の有利で抑えることができます。

しかし野球ではピッチャーVSバッターの構図はつねに1対1なので、特にピッチャーがとびぬけた力を持つ場合、それだけでチームが強くなってしまうこともありえます。このように、個の力が加算的にチームの力に影響する度合いが多いことが野球というスポーツの特殊性として考えられます。

また、同じヒット性のあたりでも、その前にランナーがどれだけいるかで得点も変わってしまうという、野球独自の戦略性もまた特殊であるといえるでしょう。

ピッチャーというポジションの特殊性

集団競技の中でもかなり特殊な部分が目立つ野球ですが、その中でもピッチャーというポジションは野球というスポーツの特殊性を象徴するようなポジションではないでしょうか。自軍が守備の時は、ピッチャーが相手バッターと1対1の勝負を繰り返すことになります。

もちろん守備の力もある程度相手に影響を及ぼすでしょうが、やはり大きく影響を及ぼすのはピッチャー自身の力です。野球は個の力がチームの強さに影響するといいましたがその中でもピッチャーはとても重要なポジションであるといえます。

野球独自の戦略性の部分もピッチャーに大きく影響を及ぼすところでしょう、攻撃のチームは何とかランナーを進めるためにあらゆることをしてきます。そしてそれは、ほとんどの場合ピッチャーに揺さぶりをかけることを目的として行われます。ピッチャーはその時のバッターだけでなく、監督を含めた相手チームの全員と駆け引きをしているといっても過言ではないでしょう。

ピッチャーに求められる5つの心理的要素

ここまで野球におけるピッチャーの特殊性について述べてきました。これらの事から、ピッチャーは「ただいつも通りに平常心で投げていればよい」というだけでは、とてもじゃないが戦えるようなポジションではないことが分かったと思います。もちろん平常心であることも必要条件ではありますがそれだけでは十分ではありません。

それでは、ほかにどんな心理的特性が必要になるのでしょうか?今回は一つの論文を参考として考えていきたいと思います。その論文は、プロ野球選手などを含む極めて高い競技レベルの五名のピッチャーを対象にインタビューを行い、質的研究という手法によって、ピッチャーに必要な能力を抽出することを目的に行われたものでした。その研究によると、以下の5つの能力が挙げられていました。

試合で力を発揮する能力

論文内では、試合の状況を判断する力、特に不利な状況を脱する力。実戦経験を積むことによってこの能力は成長できると論じられていました。

打者の打ちにくさを実行する能力

打者目線で嫌なこと、打ちにくいことを実行することができる力。この辺の能力はあまり数値には表されないものであるようです。

発想力、考える能力

投球結果と原因を分析し、さらに改善していくための考える力。そして考え出された方法をすぐに実行できる器用さも必要です。

メタ認知能力

自分の特徴や欠点などを客観視し、改善していく能力。試合においては試合全体を俯瞰する、その時々の自分の状態を把握する能力。

自己マネジメント能力

体調などの自己管理、自己調整をする能力。コーチングに対して取捨選択を行うということもこの中の意味に含まれていました。

この論文内で紹介されていた、5つの能力は、どれも心理的特性といえるものでした。特にピッチャー特有で重要だと僕が思うのは、「打者の打ちにくさを実行する能力」と「発想力、考える力」でしょうか。バッターや相手ベンチとの駆け引きをやっていきながら、自分の投球を貫くには自分のペースを乱さないことが重要です。

そのために、対戦相手の状況把握、こちらから相手を崩すという能動的なアプローチが必要になるでしょう。それには、とにかく自分の最高の球を投げることだけ考えるというだけでは足りません。それだけでも実際に良い球を投げること自体はできるでしょうが、それを相手が嫌がるかは、人や状況に大いに影響されるからです。

接戦や苦しい場面でもいつも通り勝てるピッチャーの多くは、常に相手や状況を考慮してから投げる球を決めている事でしょう。そういった、ある意味知性ともいえる部分がピッチャーには特に必要であるといえます。

ピッチャーに特に必要な能力のトレーニング法

では、どのようにして「打者の打ちにくさを実行する能力」と「発想力、考える力」を鍛えていけばよいでしょうか?

論文中のインタビューデータでは「実戦によって成長が可能である」という発話が見られましたが、実際の野球の試合以外で、相手の状況や自分の状況を俯瞰し、相手の嫌がることを選択できるといういやらしさを鍛えるということなら、頭を使って対戦する系のボードゲーム(将棋なども含まれる)などが楽しく続けられる良いトレーニングになるでしょう。

実際に競技は違いますがテニスやバドミントンなどで安定して勝てる選手には、賢く、そして相手の弱点などを分析できる能力にたけた選手が多くいます。

また、練習試合など、実戦の場では以下のことに注目し目標を立て、振り返りを行うと。上記2つの能力を伸ばすことができると思います。

  • 自分のボールの中で何が一番得意か?ではなく何が一番相手が打ちにくそうだったか?
  • どんな状況で相手が打ちにくそうだったか?
  • 相手はどんなことで自分を揺さぶろうとしてくるのか?
  • 逆に投球以外で自分のどんな行動が相手が嫌がるか?

 

もちろん一度や二度で効果があるものではありませんので、続けていくことが大事です。

いかがでしたでしょうか?安定して勝てるスポーツ選手は実はとても頭の良い人が多いです。そういった選手たちは、知性ともいえる上記の能力が高いのではないかと考えられます。スポーツも一部では相手の裏をかくゲームといっても過言ではありません。身体が疲れたときは、遊びでも良いので頭を使ったゲームをやってみるのも良いのではないでしょうか?

<参考文献>

  • 林卓史(2011)野球投手に必要な能力の検討、朝日大学経営論集、25:25-33
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