緊張した時に周りが気になるのは生物学的には正しい反応!?

こんにちは、スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。

突然ですが皆さんは自分のことを集中力のないほうだと思いますか?

例えば、試合で緊張したらすぐに観客の目や、話し声など、周りのことに気が散ってしまうとか。

失敗への不安から過剰に考え過ぎてプレーをしてしまうとか。

こんな事がしょっちゅう起こってしまう自分は何て集中力のない人間なんだ!!なんて、自分を責めてしまったこともあるのではないでしょうか?

今回は、自分の集中力のなさを嘆く前に一度読んでみてほしい内容になっております。

緊張感が増すと、人はどう情報を処理するのか?

緊張感が増す、いわゆる「あがり」という状態に近づくと、人の情報を処理する仕組みにある変化が起きてきます。

この変化を説明するふたつの説があります、「注意の処理資源不足」という説と、「過剰な意識的処理」という説です。

少し難しく感じるかもしれませんが、ひとつひとつ解説していきます。

注意の処理資源不足

人が何かをするときは自分の意識をその何かに向けます。その意識の容量を仮に100としましょう。

例えばサッカー選手の場合、試合中はボールのコントロールに100の容量を全部使っているわけではありません。

ボールへ向ける意識は30ぐらい、残りで周りの味方や敵の動きなどを把握しているのです。(ボールコントロールが未熟な初心者の場合はボールを動かすことに意識を多く持っていかれてしまうので、いわゆる「視野が狭い」というようなことになってしまいます)

しかしながら、緊張や不安が高まることによって、試合に関係ない事(観客、声援等)に意識が向いてしまうと、ボールや選手のポジショニングに向けるための意識が足りなくなってしまいます。

これが「注意の処理資源不足」という状態です。こうなると運動に向けるべき意識の容量が足りなくなりうまくできなくなってしまいます。

過剰な意識的処理

身体で覚えた運動技能(つまりは熟練されたスキル)は、たいして意識を向けなくても実行ができます。これはスポーツにおける運動技能でもそうですが、普段皆さんがおこなうような運動技能に関しても同じことが言えます。

例えば、地面に幅50cm感覚で2本のラインがひかれていることをイメージしてみてください。

「このラインからはみ出ないように歩いてください」と言われた場合、皆さんはいちいち足や重心の動かし方、足の置く場所などを意識して歩きますか?

ほとんどの方は何も意識しなくても歩けてしまうと思います。しかし、同じ幅50cmの道でも今度は、20階建てのビルの屋上から隣にある同じようなビルに向かって渡してある足場(長さは10m)を歩いてくださいと言われたらどうでしょう?

今度は極度に慎重になって、一歩一歩足の置く場所や重心などを確認しながらゆっくり歩いていくと思います。

これが「過剰な意識的処理」の状態です。スポーツなどでこの状態に入ってしまうと、「あれ?普段どうやってたっけ?」と意識しないでやっていたプレーにも意識がいって動きがぎこちなくなってしまいます。

ふたつの現象には進化論的な理由がある!!

上のふたつの説はどちらとも緊張などによって人の意識の状態が変化してパフォーマンスに影響するというもの。

いわゆる「集中が乱される」というのはこういうことなのです。

しかし、この状態は実は人間を動物として見たときに非常に正常な反応であることが、進化論的に説明されています。

人間の身体の進化にはものすごく時間がかかります。それこそ何百万年かかって少し形態が変わる程度、つまり、狩猟採集して生きた時代の頃とあまり変わらないことになります。

実は「注意の処理資源不足」の問題も、「過剰な意識的処理」の問題も大昔は全く問題にならないもので、むしろ生き残るための必須の反応でした。

イメージしてみてください。まだ人間が狩猟採集して生きていた時代、あなたはその時代に生きる一人です。

おいしい木の実を取りに森に入ったとしましょう。

その森には大型の肉食獣や、毒を持つ生き物がたくさんいます。いつどこからそれらの動物が襲ってくるかもわかりません。目標である木の実だけに意識を向けてしまっては、物陰に隠れている動物の気配に気づくことができません。

そこで、木の実を目標にしながらも生き残る確率を上げるためにはどうしたら良いでしょうか?

おそらく身の回りの危険をよりよく察知するために、意識を身の回りに散らすようにシフトするでしょう。

そして、毒蛇や肉食獣の存在をいち早く察知できるようになったあなたは、身を隠しながら何とか木の実を手に入れました。しかしそのまま来た道を戻るのは非常に危険です。あなたの歩いてきた形跡を肉食獣が見つけている可能性があるからです。

そこであなたは目の前の崖を登って逃げ切ろうとしました。ここでも命がけです。クライミングの失敗は=死を意味するといっても過言ではないでしょう。

そんな命がけの崖登り、生き残る確率を上げるためにはどうしたら良いでしょうか?

おそらく絶対に無理はせず、安全性重視で慎重に登ることになるでしょう、一手ずつ一手ずつ、足や手の置き場所、身体のバランス、崖の崩れやすさなどを確かめてそれらを常にフィードバックしながら・・・その方が失敗のリスクを減らせるからです。

このような環境で生き抜いてきた我々の祖先は、それはそれは敏感で臆病だったに違いありません。

緊張感が増した時に周りが気になりだすのも、ひとつひとつの身体の動きに過剰に意識がおこなってしまうのも、われわれの祖先が生き抜くために進化してきた意識の使い方の名残であると言えます。

集中力がないあなたは実は優秀である!?

集中力がないとお嘆きの皆さん。実は皆さんは生物としては非常に優秀な反応をしていたと言えます。

この人間をこれまで生存させてきた優秀な反応の機構が、たまたま発展してきた現代スポーツにはまらなかったというだけのことです。

生物として優秀であればあるほどこの反応が顕著に出てきているのかもしれません・・・

緊張した時に起きる、これまでよくないとされてきたことは実は当たり前のことで、人間ならだれしもが持っている正常な反応だということを理解してみてください。

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