【運動学習】脳科学の研究からわかったスポーツ上達のコツ

こんにちは、スポーツメンタルトレーニング指導士の河津です。

以前、運動学習とそれに伴うイメージを、脳波を指標として検討している最新の研究を紹介しました。↓

脳の研究からわかった、選手を伸ばす指導法~イメージを用いて~

この話の中で紹介した筋感覚イメージと客観イメージが、選手の練習にどのように関わってくるのか?自身の経験も踏まえ今回はもう少し選手目線で話していきたいと思います。

イメージの話を以前していますのでそれもご参考にされてください。↓

試合や練習でイメージを用いてみる!

ちなみにこの記事で紹介している「外的イメージ」というのは前回の記事の「客観イメージ」と、「内的イメージ」は「筋感覚イメージ」と同じ意味と考えてもらって結構です。

「身体で覚える」とは?

スポーツだけでなく楽器の演奏や単純作業など、幅広い技術の話をするときに使われる「身体で覚える」という言葉。

よく使われる言葉ですが、そもそも身体で覚えるとはどういうことなのでしょうか?そのことから解説していきましょう。

「身体で覚える」を、よりわかりやすく言い換えると「無意識にスムーズにその運動ができるようになる」ということですね。

これには、実は小脳が深くかかわってきます。

無意識にスムーズにできる運動は小脳が記憶した運動と言っても過言ではありません。

パッと言われてもイメージしにくいと思いますので、例をひとつ挙げましょう。

皆さんは自転車に乗ることはできますか?

気が付いたら乗っていたという人もいるかもしれませんが、おそらく一度か二度は練習をしているはずです。

初めてペダルをこいだとき、ただ「右足に力を入れて」こぐだけでは自転車ごと右に傾いてしまいます。そこで何とかして「重心を真ん中に持っていく」動きをすると思います。はじめはそれを大脳を使って「考えながら」おこないます。

そして何度か転びながらもその練習をしていくと、そのうちペダルをこぎながら重心を安定させる自分なりの感覚が出来上がってきます。この時点で「考えながら」やらなくても無意識にできるようになります。

実はその過程で小脳が活躍しているんです。

大脳から発せられた命令をおこないながら、その運動の結果(転ぶ、自転車が傾くなど)は小脳にフィードバックされ、その情報をもとに小脳が最適な重心のかけ方や各筋肉の連動した動きを調整していきます。そうしてその運動に適した運動指令のモデルを小脳内に作っていくのです。

これは小脳の「内部モデル」と呼ばれていて、これが構築されることがいわゆる「身体で覚えた」ということとイコールと考えてよいです。

「身体で覚える」ためのイメージの取り入れ方

それではこの内部モデルをより効果的に構築するにはどうしたら良いか、考えていきましょう。ポイントは以下の5つ。

  • まずは実施することが最優先
  • 客観イメージを筋感覚イメージに変換する
  • 同じことをずっとやらないほうがいい?
  • 道具があるなら道具を持って
  • 見本が見られるなら見本を見ながら

まずは実施することが最優先

小脳の内部モデルは、実際に運動を行った時の自分の筋感覚や視覚情報を取り込んで運動を調整していきます。

まずはとにかくやること。これが重要になります。

そのとき、「肘はたたんで」とか、「ここに力をいれなさい」など、あれやこれや細かくポイントを聴くことにあまり意味はなさそうです。すでに一定期間練習をしていて自分の筋感覚を説明できるのであれば話は別ですが。練習の初期には実は意味がありません。

理由は言われても結局イメージができないから。

指摘されるポイントが多くなればなるほどそれは余計に難しくなります。まずは見本を見せて実際に行ってもらう、これにつきます。

真似、模倣から入るのが一番確実です。

最初はとにかく繰り返し練習して内部モデルに情報を取りこむことが重要になるのではないでしょうか?

客観イメージを筋感覚イメージに変換する

その運動を一度もやったことがない時は、それをイメージするとしても「客観イメージ」でしかできないことになります。

しかし、それと似た運動をしたことがあった場合、見本を見せてもらったその場で、その見本を客観的にみている「客観イメージ」から実際に自分が行っている時の「筋感覚イメージ」に変換ができる場合があります。

これを転移と言ったりします。

実際、私が院生時代のころに遊びで卓球のダブルスをしていた時、ペアの人がやたらうまかったのでやったことあるのか聞いたら、卓球経験はないが、テニスをやっていて「スイングの感じがすごく似ている」と言っていたことがありました。

まさに転移が起こっていたわけですね。

ちなみに、いわゆる「運動神経がいい人」というのは見たものをすぐにうまく真似できる人といえると思いますが。この人たちは「客観イメージ」を「筋感覚イメージ」に正確に変換できる能力が高いと考えられます。

「客観イメージ」しか想起できなかった場合、やはり見たままを真似して運動を行っていくしかないのです。

それを続けていくと、実際の自分の筋肉の感覚や、重心の感覚、それを行っている時の視覚の情報がある程度分かってきます。そうなってくると徐々に「筋感覚イメージ」や自分の主観の「視覚イメージ」が想起できるようになってきます。

普段から練習ノートなどに細かく書くように癖をつけると、よりイメージの想起が早くできるようになるので、できれば取り入れましょう。

「筋感覚イメージ」をある程度持てるようになったら、実践とイメージを組み合わせた練習を行うとより効果的な練習をおこなうことができます。

実践の前に一度イメージでリハーサルをおこない、そのあとに実践してみる、そうすることで自分のイメージと実際の動きの違いがフィードバック情報として入ってきますので、内部モデルを構築する手助けになります。

さらに、コーチ等からの細かい体の使い方の指導などもわかってくるようになる段階なので、そういった情報もこの段階ではどんどん取り入れてみましょう。

練習するスキルによっては、「筋感覚イメージ」の他にも前述の自分主観の「視覚イメージ」なども有効です。

私は現在バク宙のレッスンを受けていますが、バク宙では自分の視覚のコントロールも非常に大事で、着地するタイミングを計ったり、自分の体制をある程度制御したりするためには、何が見えているのかを把握することもとても重要になってきます。

このようなスキルの場合「視覚イメージ」も使用することになります。

同じことをずっとやらないほうがいい?

内部モデルを構築するには繰り返し練習することが必要になるのですが、繰り返し行って情報をフィードバックすると言っても、ずーっと同じスキルの練習をするのは実は効率的ではありません。

動機づけ(やる気)の面からみても、同じことをずっとするのは飽きてしまうので、動機づけは下がってしまいますね。

運動学習の面からみるとどうでしょうか?

同じ動きをずっと繰り返しているとその時はどんどんできるようになってきます。なぜなら前に行った運動の感覚(筋感覚や視覚)が残っているのでイメージづくりをしなくてもすぐ再生できるからです。

しかしこれは裏を返すと運動のイメージ想起の練習を行っていないということ。次の日には元に戻っているなんてことも少なくありません。

勉強でも一定時間記憶は保持されるのですが1時間後に急激に失われていくので、実は、一度勉強したら1時間後に復習をすると定着しやすいと言われています。それとほぼ同じことだと思います。

イメージを想起して感覚を呼び起こすという過程が内部モデル構築のためには重要になってくるんですね。

これを踏まえると、練習するスキルは、ひとつではなく複数用意し、一定時間で変えながら練習するといういわゆるランダム練習というやり方が効果的と言われています。

要は、しっかり一からイメージを構築する時間を取るということ。それが重要になってきます。

道具があるなら道具を持って

野球やラケット競技などは、ボールを打ち返す道具がありますよね。

そういった競技では道具を持った状態の方が持たない状態に比べ、イメージ想起の際の脳からの電気信号が大きいことが研究で明らかになっています。

それは、実際道具を手に持っているという触覚情報がイメージの鮮明性を高めるためだと考えられているからです。

野球やラケット競技のスイングをイメージする時は、ぜひ道具を持ってやってみましょう。

見本がみられるなら見本を見ながら

前述の触覚情報の他にも視覚情報もイメージの効果を高めることが明らかにされています。つまり、見本を見ながらイメージをすると良いということ。

ある研究では、イメージする動作を実際にビデオで見ながらイメージした時の方が、イメージだけする場合に比べてイメージ想起の際の脳からの電気信号が大きいことが明らかになっています。

うまい人の動画や、自分が成功している時の動画(基本的には、自分の動画の方が運動学習的には良いとは言われています)があるならそれを見ながらイメージをしてみましょう。

最後に

いかがでしたでしょうか?この情報が選手の皆さんのスキル向上に役立てば幸いです。

ただ、ひとつ注意してほしいことは、イメージを想起したり、実践したりする時、自分の感覚が一番大事であることに変わりはないのですが、すべてを自己流でやろうとすると必ずしもそれが理にかなった動きになるとは限らないので注意してください。

やはり、良い師からのアドバイスなども同時に取り込んでいけると無理なく無駄なく自分に合ったスキルの実行の仕方というのが体得されていくと思います。

<参考文献>

  • 運動イメージとスキル:体育の科学Vol.63、No.2 pp93-98 、杏林書院、2013年、彼末一之 他
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