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五郎丸選手のルーティーン

こんにちは皆さん。突然ですが、2015年最も活躍した日本代表と言えば何を思い浮かべるでしょうか。ほとんどの方が「ラグビー日本代表!」と答えるのではないでしょうか。今回はそんなラグビー日本代表、その中でも特に注目を浴びた五郎丸選手の「ルーティーン」について取り上げてみようと思います。

ルーティーンとは?

そもそもルーティーンとはなんなのでしょうか。今回紹介しようとしているのは、正しくは「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」と言います。プレとは「~の前」という意味、つまりは「パフォーマンスを実行する直前に行われる一連の系統的な準備動作」のことを言います。わかりやすい例を挙げるなら、今回のお話の主役である五郎丸選手のキック前の一連の行動、または少し前に話題になったイチロー選手が行っているバッターボックスでの一連の行動などがあげられます。

ルーティーンの効果は?

パフォーマンスの前に一連の準備動作を行うことですが、なぜパフォーマンスに対して良い効果を発揮するのでしょうか。それを説明するために、競技中にパフォーマンスが低下するメカニズムとして紹介されている2つの理論を紹介したいと思います。

処理資源不足理論

自分の意識を必要な情報に向ける容量には限界があるので、処理しようとする情報が多ければ多いほど難しくなっていきます。例えば、何か調べ物をしようと思って、いろいろな本を机の上に開いて置く時、机の広さによって開ける本の数は限られますよね。しかも本が増えれば増えるほど逆に読むのが大変になってきます。
競技中、観客の声援に気を取られるたり、自信のなさから「失敗するんじゃないか」と考えたりしてしまうことは選手なら誰でも経験があると思います。このようなことが起こると、普段は自分のプレーに必要な情報に向けることができていた意識が、他に取られることになり、容量不足が起こってしまうのです。そうなると、普段プレーに関する情報に向けていた分の意識が足りなくなり結果としてパフォーマンスの低下が起こります。

過剰な意識的制御理論

競技中に過度に緊張したり不安になったりして「失敗したくない」と強く思ってしまったとしたら、おそらく失敗しないように慎重にプレーをしようとするでしょう。例えば、幅20cm、長さ10m、高さ30cmの平均台が、2つの20階建てのビルの屋上から屋上に渡されていたとしたら、どれだけ平均台が丈夫に固定されていたとしても、何も考えずにただ渡るなんてことは絶対にできないと思います。
このような状況に置かれたとき、どんなことが起こるでしょうか。おそらく、一歩一歩足のあげ方から置く場所まで意識をすべてそこに向けて慎重に歩いていくことでしょう。その平均台が普通に地面に置いてあれば、何も考えず普通通りに歩いていくことができるはずなのに。つまり、普段無意識に行っていた動きに対して過剰に意識が向いてしまうという状況になります。そして、歩き方は普段と比べてとてもぎこちなく危なっかしいものになってしまうでしょう。
長期間練習すればするほど、プレー中の自分の体に対する意識はなくなりほとんど自動的にプレーすることが可能になります。しかし、競技中の不安や緊張から慎重にプレーしようとし、過剰にプレーに意識が向いてしまうと逆に動きが硬くなり、パフォーマンスの低下が起こるのです。

 

以上の2つの話を踏まえたうえで、ルーティーンの効果を解説していきます。先の2つの理論から、パフォーマンスが低下するときは、「プレーに関連すること以外に気がとられるとき」と「プレーを過剰に意識して行ってしまうとき」の2つのパターンが考えられます。ルーティーンは、プレー直前の一連の行動をあらかじめ決めておくことになりますので、プレー直前に自分がどこに意識を向けておけばよいのかが明確になり、それによってプレーに必要のないことからも意識を遠ざけることが容易になります。結果としてプレーに関連しないことから意識を遠ざけやすくなり、プレーに適切な心理状態を作っていくことができるのです。また、ルーティーンの実行に意識を向けるということは、普段無意識で行っている自動化された動きに過剰に意識が行くことを防ぐ効果も期待できます。

ルーティーンを活用するために

試合中のパフォーマンス発揮のために効果が期待されるルーティーンですが、そんなに簡単なものでもありません。特に今回ご紹介したプレ・パフォーマンスルーティーンについて、いくつか留意しておいたほうがよいと私が思うことが2点ありますので最後にそれについてお話しいたします。

留意点① 使える場面が限られる

今回お話ししたプレ・パフォーマンスルーティーンは、プレーを実行するまでにある程度時間があって、その間に環境があまり変化しないようなときに有効なものです。例えば、バレーやテニスのサーブ、バスケのフリースロー、サッカーのFKやPKなどです。バレーやテニスなどにはサーブをする場面がありますので使える場面は多そうですが、サッカーやバスケの場合はそもそも使用する機会が全くないことも十分に考えられます。なので、人によってはルーティーンを作るよりももっとやっておいたほうが良いことがある場合も考えられます。

留意点② 体の動きだけでなく思考も含めたものにすると良い

ルーティーンが効果を発揮するには、ルーティーンを実行することに意識を向けているという状態になっている必要があります。そう考えると、ルーティーンの動き自体を体が覚えてしまって、他のこと考えながらでもできるようになってしまったとしたらどうでしょう。また余計なことに気を取られてしまう可能性がありますよね。
そうならないためにも、頭の中で何を考えておくかまで含めておいたほうが良いと思います。実際、五郎丸選手のキック前のルーティーンにもそのような要素がみられます。彼は「ボールをセットして、助走の距離を取り、そして蹴る」までを8歩で行うと決めているのですが、その時に彼は頭の中で「ドレミファソラシド!」と一歩ごとに唱えているのだそうです。さらに、その途中であの独特の合唱のポーズが入るのですが、そのとき彼はボールの軌道を頭の中でイメージしているのだそうです。体の動きだけでなく頭の中でもやることを決めているので、あの大舞台でも他のことに気がとられることなくプレー出来ているのかもしれませんね。

以上がルーティーンに対する私なりの留意点になります。これらを踏まえたうえで自分に合ったものを試行錯誤しながら見つけていきましょう。もちろん競技やポジション、性格などによって向き不向きは必ず出てきます、誰もがルーティーンを作ればうまくいくという保証もどこにもありません。あくまでメンタル面での一つのスキルとしてご紹介していますのでその点ご理解ください。

<参考文献>
• スポーツ心理学の世界 福村出版、2000年、杉原 隆 他 編

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